医療政策ガイドブック

「中医協で求められる患者の視点」

勝村 久司
市民医療協議会 共同議長
厚生労働省 中央社会保険医療協議会 委員

 中医協は、個々の医療行為や医療材料等を保険適応とするか否か、さらにそれらの価格である診療報酬を決めており、医療の価値観を決めているところだということができます。
 したがって、中医協には本来、患者の視点や市民感覚がとても重要なのです。
 しかし、これまでの中医協は患者や市民不在のまま進められ、医療の中身の個々の価値についての議論は二の次で、各分野の医療費の総額を増やすかどうかというような、関係団体の利害調整に終始している感がありました。
 例えば、自ら医療内容の選択ができなかった患者が、過剰な医療行為によって不本意な結果に終わるようなことが繰り返されていますが、その背景には、患者が求めている価値観と診療報酬に医療機関側が収入を得るための診療報酬の価値観とが合っていないという問題があります。
 また、救急医療や周産期医療、地域医療など、ごく普通の市民感覚で価値が高いと思われる医療が、長年にわたり構造的に赤字分野として固定され、ないがしろにされてきたというような問題も、中医協の議論が市民不在で進められてきた証だと言えるでしょう。

 医療行為をするのは医療の専門家ですが、情報公開等によって専門家を監視する役割を担っているのが医療の消費者である患者や市民です。不本意な治療、不健全な制度は、専門家が、患者の立場や市民感覚を忘れてしまったり、命や健康を最も重視するという価値観が医療界内部で崩れてしまったりすることが原因だと言って過言ではないでしょう。
 1997年に、それまで患者本人であっても絶対に見ることができなかったレセプトの開示が実現して以降、ようやく診療報酬単価まで記された医療費明細を患者に提供することが常識となってきました。また、情報公開法の制定や薬害エイズ事件の反省などによって、それまで非公開だった厚労省の審議会等も公開されるようになり、中医協でも、患者や市民からのヒアリングや、パブリックコメントはもちろん、患者・市民自身の審議への参画も欠かすことのできないものとして尊重されるようになってきました。
 これからは、医師会、大学医局、製薬企業、保険者等の利害調整を超えて、地域ごとの医療計画の立案、地域間の医療格差の解消、疾病毎の医療内容や医療水準の標準化、健全な価値観に合った医療費の適正配分などにおいて、患者の視点や市民感覚を重視した施策を行っていくことが大切で、そのためには、患者や市民が、より主体的に中医協の議論に関わっていくことが大切だと思います。
 




※中医協(中央社会保険医療協議会)とは
 法律により厚生労働省に設置されている諮問機関です。
 中医協は、厚生労働大臣に任命された20名の委員によって組織されます。委員の構成は次のとおりです
 1.健康保険、船員保険及び国民健康保険の保険者並びに被保険者、事業主及び船舶所有者を代表する委員-7名(支払側)
 2.医師、歯科医師及び薬剤師を代表する委員-7名(診療側)
 3.公益を代表する委員-6名(大学教授など有識者が中心)
 委員の任期は2年間で、1年ごとに半数の改選が行なわれます。
 その他、専門の事項を審議するため必要があると認められるときには、厚生労働大臣は各10人以内の専門委員を置くことができます。
 中医協ではおもに、医療費全体の改定率や、診療報酬(治療、検査、薬剤など)の改定内容について審議しています。診療報酬の改定については支払側と診療側が交渉し、公益委員が調整して決定しています。公益委員は診療報酬の実施状況について調査を行うこともあります。近年では国民の声をより反映させるため、委員構成の見直しや議事録の公開などの取り組みもなされています。
 ※中医協議事録は、厚生労働省ウェブページからご覧になれます。